Journal
#10
地域とオリーブ
2026.04.28

11月最後の日曜日。オリーブのある山科区東野の北部第二町内会で「秋の集い」がひらかれた。集いといってもささやかなもので、オリーブが焼き芋を売って、メンバーが通う近くの交流サロン「るまんやましな」のコーラス隊の発表があり、植物の寄せ植えワークショップが行われるといったものだ。
近頃は子どもの数が少なくなり、住人が高齢化している。この祭りは、ご近所同士が顔見知りになるきっかけになればとの思いで、コロナ禍の頃にオリーブの近くに住む大久保香さんの企画で始められた
午前11時頃に祭りの会場に着くと、積み上げられたいくつものタイヤといろいろな工具が目に入った。ここはオリーブの評議員を務める大井さんが営む車の修理工場だ。ちょうど寄せ植えのワークショップをやっている最中で、オリーブのメンバーの西田さんが講師に教わりながら、ピンクの花を鉢に植えているところだった。「ベランダに置こうと思うんです。花が咲いたらいいなと思って」と話してくれた。
ちょっと早く来すぎたのだろうか。西田さん以外の参加者は見当たらず、自治会の役をやっていると思われるひとたちが、和やかに談笑していた。
午後のオリーブの出店までは時間があったので、わたしも近くのファミレスで時間を潰すことにした。週末のファミレスはにぎわっていた。でもよくみると、ほとんどの席は子どもたちだけで、大人はいない。子どもたちがスマホをメニューにかざして注文し、ドリンクバーとテーブルを往復している姿が目に飛び込んできた。べつに騒いでいる様子でもなく、淡々とフォークとスプーンを操る子どもたちを横目に、熱々のアラビアータを食べた。
会場に戻ると、並べられた数十個のパイプ椅子がすっかり埋まっていた。みんなステージの方を向いてはじまるのを待っている。司会の大久保さんの合図でステージの演目がはじまった。まずは中学生姉妹による美しいデュエットがあり、そのあとにコーラス隊が続いた。
さっきまで客席で開演を待っていたひとたちが、次々とステージに上がりコーラス隊となった。司会をしていた大久保さんも、伴奏するためにピアノ席に着いた。この日のために練習を重ねてきたコーラス隊による「手のひらを太陽に」や「アンパンマンのマーチ」など、やなせたかしの歌が披露され、客席も一緒になって歌った。工場の屋根はところどころがスケルトンになっていて、そこから差し込む光が優しかった。
町内に住むひとはどれくらいいるのだろうか。参加者の顔ぶれは限られているように見えた。子どもたちがわずかに、あとはお年寄りや自治会の役をやっているひとたち。焼き芋や珈琲やさをり織りの販売があり、歌声や楽しそうな声は、オリーブのスタッフやメンバーのものだった。この地域で、オリーブの存在は決して小さくないと感じた。
ずっと地域のなかに福祉があるのだと思っていた。ひとの生活する場があって、そこに作業所やグループホームがある。けれどもこの日のオリーブは、地域そのものといってもよく、かつての地域の姿が薄れつつあるなか、制度としての福祉がはっきりとした輪郭をもって存在しているように思えた。
子どもたちが路地から姿を消してファミレスに集まるようになり、隣に住むひとの顔もわからなくなって久しい。そんななか、オリーブのメンバーやスタッフは30年の間に少しずつ入れ替わっても、毎日顔を合わせ、時間をともにし続けている。
地域っていったい何だったっけ。雨をしのげる屋根とスペースがあれば、ひとは集まり話をする。それだけのことなのだけれど、もうそうしたことも簡単にできなくなっている。
西田さんの姿は午後にはなかった。でもなぜか、彼が花を植えていた姿がほんのり優しい空気をまとって記憶に残った。小さな花はベランダで咲いただろうか。
訪問日=2025年11月30日(木谷恵)




