オリーブホットハウス

Journal

#4

お話会のきろく Part.1

2024.03.18

オリーブのお昼ごはん

2023年12月23日スウィングキッチンYourにて、お話会(主催:書店 九)が開かれました。ゲストに駒澤真由美さんをお招きし、オリーブの会の勇川昌史と「精神障害者への就労支援の場でおきていること」について話しました。
お話の後、会場のみなさんからもさまざまなご意見やご感想、質問をいただきました。本記事では、二人のお話の一部をご紹介します。
※お話会の内容を再構成し、後日加筆修正したものを掲載しております。



ゲスト/駒澤真由美(こまざわ・まゆみ)
立命館大学大学院 先端総合学術研究科 プロジェクトマネージャー(研究指導助手)
夫と死別後、希死念慮を伴う鬱病を患い、経営コンサルティング会社を退職。その後臨床心理・精神保健福祉を一から学ぶ中で、精神障害に関する制度・サービスに疑念を抱き、研究の道に進む。2022年9月に博士論文をもとに刊行した著書『精神障害を生きる――就労を通して見た当事者の「生の実践」』が、立命館大学生存学研究所第9回(2023年度)「生存学奨励賞」を受賞。

ゲスト/勇川昌史(ゆうかわ・まさし)
社会福祉法人オリーブの会 理事長/大阪保健福祉専門学校精神保健福祉科、京都府立大学公共政策学部福祉社会学科にて非常勤講師
大学卒業後、2005年より社会福祉法人オリーブの会で働き始める。2016年理事長に就任。現在、相談支援事業所、グループホーム等も運営する。

進行/木谷恵(きたに・めぐみ)
書店九店主/執筆業
重度訪問介護の介助者を経て、2014年から2020年まで高等教育機関で障害学生支援のコーディネーターを務める。オリーブの会のウェブサイトにて記事を執筆中。
九(https://www.books-9.com



就労支援の変化

木谷 勇川さんとは10年来の知り合いで、ときどき会っては、いまオリーブの会(以下、オリーブ)どうですか?と聞いてたんですね。その中で最近、障害のある方の就労支援に営利法人が参入していて、どうもその割合が増えているという話を聞きました。
いままでは社会福祉法人やNPO法人が中心でしたが、とりわけ就労移行支援と就労継続支援A型で、営利法人の割合が大きい割合を占めるようになった。その分、社会福祉法人の割合が小さくなっている。ということは、廃業しているところがあるということです。
オリーブもそうだと思いますが、家族らが立ち上げ、老舗と言ってもいいような長年やってきたところでも利用者が減っている。それが良いか悪いかはわからないのですが、何かが起きているというのをすごく感じました。
今日は、その何かが起きているということの具体的な話をしていただく予定です。
勇川さんには、オリーブや周りで見聞きした変化について。駒澤さんには、多くの当事者にインタビューをされてきたことから、こうした変化の中で当事者がどういう状況にあるのか、まずはそれぞれに自己紹介をしていただいたうえで、お話をお聞かせいただけたらと思います。

勇川 今日ここへ来る前に時間があったので、すぐ隣にある立命館大学を見て来たのですが、非常に懐かしくて、郷愁に浸っていました。私は立命館大学の産業社会学部・発達福祉コースという社会福祉士を取れるコースを卒業していて、卒業後は大阪にある不動産関係の会社に就職しました。勤めていた頃は、毎朝顔を洗って鏡を見るたびに、なんか違うな、こういう仕事をしたかったのかなみたいなことを考えていました。それで1年ちょっとで会社を辞めて、アルバイトの募集をしていた現在のオリーブに採用されます。ですので、たまたまご縁があってオリーブに勤めているような立場です。
そのときは、精神障害の方に関わる支援をしたいと思っていたわけでなくて、単純に福祉の仕事をしたいなと思っていたぐらいなのですが、実際に統合失調症の方とかにお会いする中で、もうちょっと勉強したいと思うようになり、翌年に精神保健福祉士の資格を取ります。その後、施設長になって5年ぐらいが経った頃、自分のやっていることがこれでいいのか改めて見直したいと思い、大学院で福祉事業所の地域における役割というものを研究しました。オリーブのことはまた後でお話ししたいと思います。

駒澤 私は大学を卒業して、中小の経営コンサルティング会社に入社をしました。実家が料亭で商売をしていて、斜陽していて立ち行かなくなっていたので、経営の勉強をしたいというのもありましたし、本にも書いたのですが、友人の父親が借金を苦に首吊り自殺を自社工場でして、その第一発見者が友人だったというすごくショックな出来事があったんです。経営者って孤独なんだなと思ったこともきっかけです。
経営コンサルティング会社で働いていたときに、中小企業の異業種交流会という、社長が集まって、どんなことで困っているかみたいなことを話す場をコーディネートしていたんですね。いま思えばまさにセルフヘルプグループだったのですが、実は私の仕事はそういうところから始まっていたんだと後から思いました。
90年代になり、大企業がリストラを始めます。そのときに、営業部長さんとか工場長さんとかが一斉に解雇されました。50代ぐらいの、これからどうするんだというような方々がです。再就職先を探さないといけないのでそのお手伝いをするのですが、皆さんショックで鬱になってしまい、求職活動なんてできない。ですので、まずはおひとりおひとり話を聞くというようなことをしていました。
ほかには再就職をするひとたちのグループカウンセリングですね。同じ立場のひとたちが、しんどかったことや、これからの希望を語り合うようなセルフヘルプグループの場を運営していたんです。
そうこうしているうちに、私の主人が癌で亡くなり、その後、会社の命運をかけるような大きな新規事業の立ち上げを責任者という立場で任されます。でも全く無理なんですね。ひとって、何もできなくなることがあるんだと思いました。そういえば、リストラされた方々もこんな感じだったのかなと、我が身に振りかかって初めて理解できた気がしました。
そのときは全く動けませんでした。それで、同僚がカウンセリングを受けたほうがいいんじゃないかと言うので、初めてカウンセリングの門を叩いたんです。
私はその頃、死にたい死にたいという状態だったんですが、カウンセラーの先生に「グリーフケアができていないのに、こんな新規事業の立ち上げとかやって、あなた自分の命が惜しくないのか」って言われて、近所のクリニックを紹介され、すぐに診断書がおりて休職になりました。
最初のうちは引きこもっていたのですが、心療内科クリニックでカウンセリングセンターの案内を見つけて、先生とのやりとりをメタ的に見ると面白いなと思い、カウンセリングに興味を持ちました。リハビリのつもりで、週に1、2回カウンセリングを学ぶための講座に通い始めたんですが、そこで仲間ができて、お茶しに行ったり、ご飯食べに行ったりしながら、徐々に回復していき、復職したんです。このときの経験は、非常に大きかったと思います。

勇川 オリーブについてお話ししますと、京都府の精神保健センターを卒業した家族が、1987年に共同作業所という形で開いたのが始まりです。
当時は、いわゆる共同作業所づくり運動が全国に広がっていく時代で、まさにそうした中で立ち上げられました。その後、NPO法人になり、要件が緩和されたことで社会福祉法人になって、名称も精神障害者小規模通所授産施設に変わります。
さらにその後、ちょうど私が勤め始める頃ですが、2006年に障害者自立支援法が施行され、法内施設に移行しなければならないということで、現在の就労継続支援B型事業に移行しました。
法律が変わっていくことにあわせて、施設形態や名称が変わっていったんですね。でも、基本的にやっていることは一緒だと思っています。
私が勤め始めた頃は、山科の圏域で福祉サービスを提供している作業所は、おそらく5つ程度でした。それが現在、B型に限っても20ぐらいあると思います。約5倍に増えた。
以前であればその5つから選ばないといけなかったのが、いまは20の選択肢がある。個々の利用者からすれば、行き先が増えて選択肢が広がるのはいいことです。

木谷 確かに。選べる先が5倍に増えたというのは大きな変化ですね。

勇川 ただ、それがいいかどうかは考えないといけないと思っています。社会の中で生きづらさを抱えたひとが増えているから、数が増えているわけです。利用する方が増えているのは、生きづらさが増したことが、障害という形で現れているからともいえます。
ただこの間、福祉多元主義と言われる、福祉を提供する主体が様々にある方が良いという考え方が広まりました。そのことにも関わって、いままでのいわゆる措置時代であれば、社会福祉法人にしか認められていなかった事業が、措置から契約に変わり、民間の事業者も参入できるようになったんです。その結果でもあるので、自然に増えていった部分と、国の施策として増えていった部分の両方があると思います。



就労支援事業所増加の裏で

勇川 法制度の緩和で、さまざまな事業主体が福祉事業に参入できるようになりました。
かつて、「悪しきA型」と言われた時代があったのですが、国からの助成金を目当てに、福祉事業をやったことのない企業がどんどんA型事業に参入して、助成金が打ち切られる3年後に事業を辞めてしまうんです。そのために障害者が大量解雇されました。
助成金をもらえる間だけ事業をするというのでは、障害のある方の支援をしたいからではなく、儲けることが目的だと思われても仕方がありません。
ただ、制度上、そうしたことが可能であったことも問題です。そもそも株式会社は儲けた分を分配するのが使命なので、利益率が高い業種や中身を選んで参入し、運営していくのは当たり前のことです。
あきらかに悪質なところをのぞけば、営利法人が増えること自体は悪いことではないと思います。ただ、中身が伴っていない事業所が増えたなとは感じます。
たとえば、パソコンを使った作業をする事業所が新しくできたのですが、蓋をあけてみると、「Wordを触っておいてください」「Excelを触っておいてください」と言うだけで、実質的な仕事をやっていないという話を聞いたことがあります。
ほかにも、A型でカフェをするところができたのですが、そのカフェで働きたいと思って行ってみると、バックヤードで空き缶に何かを巻きつける作業をしていたとか。

木谷 その作業の売上金が利用者の工賃になりますよね。さらに、その工賃の額によって、事業所が国から受け取る補助金額が変わってくる。

勇川 そうです。就労継続支援B型は、工賃の高い低いによって国からもらう補助金の額、つまり報酬単価が変わってきます。障害者に支払う工賃の平均額が高ければ高いほど報酬単価もあがるという設計になっている。ただ、この平均工賃額が非常に低い事業所がいますごく増えています。



工賃と事業所運営の関係

勇川 令和3年度に報酬改定があって、さっき言った工賃の多寡とは関係のない報酬体系が選べるようになりました。工賃の多寡ではなく、利用者の就労や生産活動への参加そのものを評価する仕組みで、そこに地域協働加算というものがあり、その加算をとることによって、平均工賃額が低くても、報酬単価の額が下がらないことになりました。そういう仕組みで事業を行うところが、新規参入で増えてきているという現状があります。
これは難しい問題で、工賃の多寡によって報酬単価が変動することも問題ですが、だからといって、現在の工賃額はあまりに低すぎるので、あげていく努力はするべきだと思っています。

木谷 工賃の多寡によって報酬単価が変わる問題というのは、具体的にどういったことですか。

勇川 たとえば、精神疾患をお持ちの方が退院してきて、まだ体力もないし、自信もない。だから、週に1回、2時間程度しか働けないけど、社会参加をしたい。そういった希望をお持ちの方が事業所に来るとします。
そういう少ない時間しか働けない方を事業所が受け入れると、平均工賃月額が下がる可能性があります。逆に、週5日働ける方であれば、その方に支払う工賃額が高くなり、平均工賃月額を引き上げます。その結果、何が起きるかというと、週1回しか働けない方を事業者側が選別して、来させないようにするんですね。
原則は、利用希望者を断ってはいけないことになっているのですが、うちは週3回以上の方しか来れないというような言い方で、事業者側が障害のある方を選別していることが起きています。

木谷 社会では働けないから福祉を利用しているのに。

勇川 そうです。働けない方やこの社会の仕組みの中で苦しんでいる方が福祉を必要としているのに、その福祉サービスを提供する側でさえも、働けるか働けないかでジャッジするということが起きている。
これは非常に問題だと思います。でも、そんなことが私の周りでも当たり前に起きていて、むしろ、働ける障害者を集める事業所が多くなってきているんじゃないかと思うほどです。そんな危機感があります。
私自身は大学や専門学校で教育に携わっているので、福祉を学ぶ学生たちには、せめてメッセージを伝えるようにしています。より困っているひとたちにこそ向き合っていくような、そこにこそポジティブに働きかけられるようなソーシャルワーカーを育てたいと思っています。



そもそもの問題は、生活費がないこと

木谷 営利法人の参入だけが問題ではなくて、営利法人であろうとなかろうと、措置から契約になった時点で、サービスの提供者は競争の中で勝ち残っていかなければならなくなった。福祉の事業を展開するすべての事業所が事業を安定的に続けていこうと思うと、ある程度、儲けられる方法や続けていける仕組みを考えないといけないわけですね。
でもその中で、「より良い利用者=お金になる利用者」に来てもらわなければ、勝ち残れないというのは問題だと思います。

勇川 それが現在起きている変化です。これからもっと変わっていくと思うので、昔の福祉が良かったという話ではなくて、今後変わっていく中で、私たち社会福祉法人が果たすべき役割も考えていかないといけないと思っています。

駒澤 当事者の立場に立てば、私がインタビューさせていただいた方もそうなのですが、非正規の障害者雇用とか、もうそこにしか枠がないんですね。
生活保護もありますよということなんですけれども、そうするのは絶対嫌だという方もいらっしゃるんです。だから本当は生活保護を受けられたほうがいいという方のうちの2割ぐらいしか生活保護を受給されていないのが実態です。どうしても社会の偏見、自分もそう見ていたんですよね、生活保護を受けているひとを。だからそれを自分が受け入れがたい。そうすると働かないといけない。
障害年金がもらえたらいいという話もあるんですけど、障害年金をもらうということは、書類を書いて書類が通れば、昨日まで障害者じゃなかったのに、今日から障害者になると。自分が障害者であることに対して、レッテルを貼られることにも抵抗がある。それでも生きていかないといけないので、障害年金を申請しようと思っても、未納だったりする。すると、障害年金の申請すらできない。
あるいは障害年金の申請書を書いても、あなたは発達障害と統合失調症のグレーゾーンだからおりないということがあって、障害年金すらもらえない。となると、働かざるを得ない。
でも例えば、介護の仕事をフルタイムでやっても、お給料は生活保護と変わらない。生活保護から脱してしまったら医療費も払えないということで、フルタイムで働いて、ほぼ生活保護費を返金して、(15,200円未満の所得であれば、その全額が基礎控除として控除されるので、その分は手元に残した上で)医療扶助を使う。そういうことが起きているんですね。
実際に私たちがどうやって生きていくかということを、知恵を絞って考えざるを得ないというのが現状だと思います。
そう考えたときに、営利法人が出てきて、いますごい争奪戦みたいになっているんですけれども、福祉施設ではお弁当が300円とかでとても美味しいものが食べられるけど、うちはお弁当無料ですとか、うちにはドリンクバーがありますとか。そっちに行きますよね。生きていかないといけないので、当事者の方は利用されますよ。
それでそういうところに行くと、たとえばスタンプカードにスタンプを押してもらえ、皆勤賞がもらえたりします。そういうふうなところで動いてしまう。
本当に志のあるオリーブさんとか、障害のある方と共に働くということで、現場をつくってこられたところが立ち行かなくなってしまった。本末転倒なことが起きています。

木谷 おっしゃるように、そもそも所得保障の問題がある。それはベーシックインカムの議論にもつながっていく話で、今日はその話には触れられませんが、とても大きな問題としてある。
営利法人が増えたことに関する問題は、さっきも言いましたけど、営利法人が増えたから悪いという単純な話ではないですよね。
それに、勇川さんもおっしゃっていましたが、これまでの就労支援が良かったとも言えないと思うんです。就職先はずっとなかったし、就労継続支援B型から一般就労への移行率なんてずっと数パーセント代でしたよね。20年30年とずっと同じ事業所に居続ける利用者もいて、そうしたひとたちがそのままで本当に良かったのかと考えてしまいます。



Part.2につづく